乙嫁語り


舞台は19世紀後半の中央アジア。
「乙嫁」とは「美しいお嫁さん」という意味で使われている。
この作品は、この時代の中央アジアの「乙嫁」たちが、
厳しい自然の中でたくましく生きていく生活模様や文化風土などを
緻密で精巧な描写によって描かれていく漫画です。
数話ごとに、焦点が当てられる「乙嫁」は変わっていく。
冒頭に登場する「アミル」という「乙嫁」がこの作品の最初の主人公。


-『乙嫁語り』1巻より-


●ざっくりあらすじ
北方の遊牧民の家から、定住民の家の後継ぎの
若干12歳の少年「カルルク」の元へ20歳の「アミル」が
嫁いでくるところから物語は始まる。
基本的にこの時代、この地域の「結婚」は双方の家の親同士が全決定権を持つ。
結婚するまで互いの顔を知らないといのが「普通」なんだそう。
「本人の意思は!?」と言いたくなりますが、そういう文化なんですね。
本人たちは普通に受け入れています。

ただ女性は20歳ではいわゆる「行き遅れ」らしく、
最初こそは周りもお嫁さんの歳に戸惑いますが、
当の夫であるカルルクは全く気にしていない。
アミルはアミルでとても素直な性格で、
ゆっくりと夫婦としての絆を深めていく様子が
とても微笑ましいです。

●みどころ1:文化
カザフスタンとかの辺り、と言われても「どんなところだっけ」と思いますよね。
僕もこの漫画を読むまでは、知識もイメージもあまりない文化圏でした。
ちなみに現在の国の位置的にはこの辺りだそう↓↓


出典:わかる!国際情勢-外務省

ここらは基本的にはイスラム文化圏。地域によって度合いが違います。
それが、場面が変わるごとに、登場する人たちの生活の様子、
着ているものなどからおもしろいくらい読み取ることができます。
特に女性の過ごし方が顕著に違います。
その点はイスラム文化圏ならではだなあ純粋に思います。

女性が姿を一切見せない地域もあれば。
漁師町では、これでもかというくらい女性が表で
ハツラツとしている地域もある。

「乙嫁」に視点を当てた作品なので、女性の生活について描かれていることが多い。
女性の生活というと「家」での仕事全般。
「掃除」「洗濯」「子育て」そして「料理」

●圧倒される描写と生きるための食事
・パン
基本的にどこも大家族で、十何人もいる家族の毎回の食事を賄うのも立派な仕事。
彼女たちが作るなかで、とても魅力的にうつったものが「パン」。
大量の生地を成形し、共用の竃で次々にパンを焼いていく女性たちの姿は、
文化や時代を超えて共通する力強さを感じます。

綺麗な文様が施されたパンは様々な意味が込められているそう。
アミルの友人パリヤはパン作りが得意で
その文様の意味で想いを伝えるシーンがある。


-『乙嫁語り』8巻より-

中央アジアの美しき文様とパン - dressing

・狩り
冒頭に話した第一の乙嫁アミルは遊牧民出身。
その上狩りで狐や鹿まで捉えてくるという優れた弓の腕を持ち主。
そしてこれまた優れた手つきでさばき、なんとも美味しそうなごはんを作っていく。
基本は自給自足の世界。
移動手段も基本が馬力なため、遠出をする際は生きるための純粋な食事に、
読んでいるこちらも活力が溢れてくる。

・屋台
とは言っても100%自給自足というわけではなく、お店もちゃんとあります。
外に行けば喫茶店や屋台などで食べ物を買って食べたり。
おじさんが世間話をしながら大鍋で焼き飯を作るシーンは思わず喉を鳴らしてしまいそう。

-『乙嫁語り』6巻より-


●圧倒的描写力
別にこれはグルメ漫画ではないけれど、
何と言ってもこの圧倒的な描写力でどこまでも惹きつけられる作品だ。
なんなら僕は画集のように眺めるだけでも楽しめてしまう。

料理だけでなく、家づくりや刺繍など、
ありとあらゆることそれは特別なことではなくて、
この時代この土地に生きる人たちのありのままの姿の
一瞬一瞬が鮮明に緻密に美しく描かれていく作品。